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小出詞子先生について

小出詞子(ふみこ)先生は、理論と実践において世界の日本語教育の開拓者・指導者でありました。また、人間愛を身をもって体現された方でもありました。先生の著書、講演、講義などで直接間接に指導を受けた日本語教師は数え切れないでしょう。日本及び海外の大学、関係諸機関の仕事を積極的になさり、日本語教育の発展に大きく寄与なさいました。1993年には、その功績に対し勲四等瑞宝章が授与されました。先生のご活躍の一端を紹介します。

先生は21年鹿児島市生まれ。42年東京女子大学卒業。43年文部省の第1次派遣日本語教師の1人としてフィリピンに赴く。48年長沼直兄先生から新設の東京日本語学校に招かれる。50年第1回ガリオア奨学金を得てミシガン大学に留学。後、同大学の言語学修士号を取得。国際基督教大学(ICU)開学の53年から留学生に対する日本語集中教育を始める。先生の理論に基づいた教科書の作成、教授法の確立を目指してICUの日本語教育の第一歩が先生によって踏みだされた。その後ICUから多数の日本語教師が輩出することになる。先生は日本言語学会、国語学会などでの研究発表も活発に行う。62年「外国人のための日本語教育学会」(現在「日本語教育学会」)設立の原動力となる。67年フルブライト奨学生としてマサチューセッツ工科大学とハーバード大学で研究。短波放送Let’s Learn Japaneseに対し、71年文部大臣賞が授与される。20年近いこの放送は日本語に対する世界の関心を高めることに貢献した。同年モナシュ大学在日日本センター主任。74年、朝日カルチャーセンターの日本語教師養成講座の計画立案に携わり、多くの日本語教師を育てた。87年のICU定年退職と同時に、新設の姫路獨協大学(HDU)の外国語学部日本語学科長に就任。私立大学初の日本語教育の専門課程として全国的に注目される。実習、模擬授業、海外の大学でのインターンシップで鍛えられた院生を含むHDU出身者が国内外で活躍している。91年に「小出先生の古稀をお祝いする会」が催され、それを契機に「小出記念日本語教育研究会」が発足、先生の誕生日6月23日に近い土曜日に開くことになった。第1回は92年にICUで開催。毎年多数の参加者を迎えて開催され今日に至っている。97年HDU定年退職。先生は2002年にお亡くなりになった。

このように、小出先生は常に日本語教育の最先端を信念と使命感を以て厳しく歩まれました。他方、先生は優しい眼差し、温かい笑顔、そして大きな包容力で周囲の者を分け隔てなく包んで下さいました。この厳しさと優しさがこの研究会にも引き継がれています。研究会会場での「本のバザー」も先生の蔵書をもとに始められました。先生の妹さん、小出啓子(さとしこ)先生も生前は毎年のように出席され、この会を支えて下さっていました。先生と啓子様に心から感謝申し上げたいと思います。

【2010年(2019年改訂) 山田幸宏記】