2023 No.31
キャリア形成における日本語教育の意味づけの変容 ─養成課程修了後に日本語教師以外の職業に就いたS氏の語りの分析─
松尾憲暁
要 旨
本研究では、大学の日本語教師養成課程修了後に日本語教師以外の職業を選択したS氏を対象とし、キャリア形成プロセス及びそのプロセスにおける日本語教育の意味づけの変容を分析した。複線径路等至性アプローチによる分析の結果、S氏はタイでのタイ人の先生との衝突を契機に外国人として自己を認識するようになり、そのことが帰国後の日本で暮らす外国人との関わりを通して、外国人材を支えたいという気持ちに繋がっていっていたことが明らかになった。その過程で日本語教育の意味づけは「日本語学習者に日本語を教えること」から「日本で暮らす外国人を支えること」へと変容していた。日本語教師にならない人も視野に入れた教育プログラムでは、キャリアについて語る機会を作り、受講生が自身のライフテーマを見つけることを支援していくことが重要である。それにより、どのような職業に就いても養成段階での経験は意味のあるものになっていくであろう。
キャリア形成における日本語教育の意味づけの変容 ─養成課程修了後に日本語教師以外の職業に就いたS氏の語りの分析─ - 松尾憲暁