1995 No.04
語順と特立提示機能に関する試論 ─新規項目導入形式を手がかりとして─
砂川有里子
1.コンテクストと言語形式
我々は、ことばという手段を用いることによって、きわめて創造的で無限に開かれたコミュニケーションの可能’性を手にしている。しかし、そのための手段であることばは無限に開かれた体系をなすというわけではなく、我々の使いうる言語形式も、その数は限られものでしかない。そのために、一つの言語形式がコンテクストに応じて異なった機能を果たす、といったことが頻繁に起こりうるし、いくつかの言語形式が微妙に異なる機能を担うために同一のコンテクスト内で競合するということもしばしば経験する。すなわち、ある言語形式が用いられたからといって、必ずある特定の機能と結びつかねばならないといったものではないし、あるコンテクストが与えられたら、必ずある特定の言語形式を用いなければならないということもないのである。このように、言語形式と談話機能とは一対一対応で結びつくものではない。そのため両者の関係は非常に捉えがたいものとならざるを得ず、言語学者の内省や直観だけに頼って研究できる領域をはるかに越えることになってしまうのである。