1996 No.05
日系ブラジル人児童・生徒の言語生活と多文化主義 ─ 学習権の保障という観点から

野山広


1.はじめに

 1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」は、1994年3月、日本の国会においても全会一致で批准(締結)され、同年5月に公布された。締結国である日本には、この条約において認められている権利の実施のためのあらゆる適当な立法上、行政上およびその他の処置(教育制度の改革や政策立論等)をとる義務が生じたわけである。しかしながら、あれから約2年たった現在、日本の教育政策や制度がこの義務を果たしえる包容力を保持しているかは大いに疑問である(2)。なぜなら、日本の教育は、未だ日本人としての子どもの権利が視野に入っているだけの一元的施策の展開にとどまっており、制度上、多様な背景を持った子ども連に対する「学習権」の保障が十分にはなされていないものとなっているからだ。換言すれば、ほとんどの場合、日本人として「適応するための教育」がなされ、他民族・他国籍・無国籍の子どもが自らの言語や文化的価値観を維持・発展させることを視野に入れた「創造・変革するための多文化主義的な教育」はなされていない状況にある。

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日系ブラジル人児童・生徒の言語生活と多文化主義 ─ 学習権の保障という観点から - 野山広

Language Life Style of and Language Education Based on Multiculturalism for Japanese-Brazailian Children - NOYAMA, Hiroshi